“Teach Town”という自閉症児へのCAI(コンピュータ支援教育)の会社主体のシンポジウム。
アメリカでは、こうした企業が研究発表するケースは日常茶飯事であり、それなりの品質保持と企業PRが目的なのであろう。これ自体、決して悪いことではない。
しかし、内容に関しては今イチだった。不親切なことにハンドアウト資料も企業のチラシ1枚と、印刷中の研究論文のコピーだけ。他の会場の盛況ぶりと比較しても、大きな会場を借りている割に、さっぱりの客入りだった。
この企業から最初のプレゼンをした女性は、コンピュータを指導に使う利点として、次のようなことを挙げている(といっても、資料がないので参加した自分の速記メモ頼りだが)。
教材を減らすことができる。
厳密なデータを収集できる。
スタッフトレーニングが容易である。
トリートメントにかかるコストを減らす。
多くの子どもにとって動機づけを高める。
獲得を促進する。
すぐに試行を提示できる。
般化。
即時強化。
上記のことは、確かにその通りであろう。
しかし、つまるところ『便利でお手軽』ということを売りにしているのであって、職人たる自分の方向性とは異なっている。発表者は「教室を走り回る子どもがいて、教師が『ナンシー、ナンシー、ナンシー、こっちきて座って、ナンシー、ナンシー!』と呼びかけて大変だけど、コンピュータを使えば、じっと座ってくれる」みたいなことを言っていた。
確かに、大学での学生指導をやっているときに、学生が教材の準備にちょっとでももたついていると、その隙に子どもが離席するなんてことはよくあること。アメリカでは、だからコンピュータを使う。だが、自分は学生に「もたもたするな」「子どもを叱るな、もたもた準備しているお前が悪いのだ」「エスケープされるのを待つんじゃなくて、こっちから準備ができるまで離席を許すように」などと指導している。そして、パソコンの前での学習では動機づけが高い、その利点を活用しようというアメリカ的発想。自分は違う。「自閉症の子どもに好かれるセラピストになれ!」くらいのことを、学生らには指導しているのだ。理論は同じでも、方向性が違うのだ。
後は提示されたデータ(Pre-Post Test)について。事前テストで平均60%の正答率だったのが、事後テストで約90%に上がっている。しかし、事前テストの正答率が60%と考えると、これはあまり驚くべき変化ではない。最初からある程度のコンピュータスキル(少なくとも着席しての課題従事スキル)があったのではないか、との疑問を持った。
この疑問は、次の発表者によって裏付けられた。次の発表者は、大学教員の立場からこの“Teach Townプログラム”と“教師による指導”との比較研究を行った結果のプレゼンだった。結果は、確かに“Teach Town”で一定の効果もあったが、参加児の中には“Teach Town”が効果的でない子どももいることを示していた。今後の課題の一つに『どんな子どもが“Teach Town”に合うのか?』としていた。ちなみに、この発表者はこのシンポジウムの指定討論者でもある。
一応、フェアな討論もあった。しかし、シンポジウムの企画者でもあり最初の発表者でもある女性は、この企業代表ということもあって、効果的なことを強くアピールしていた。ちょっとクーラーが寒く感じてしまった。
自分が相手にしている年少の自閉症児をみれば、コンピュータに向かうことができるまでにある程度のトレーニングが必要だということ。つまり、CAIは結構なことだが、その指導を開始するためのレディネスが問われなければならない。この辺りの議論が不足していたことが残念である。
自分の好みで言わせてもらうならば、やはり何でも『お手軽、便利』というのは嫌いである。アメリカ社会では、色んな人が教師・セラピストをしている。教育レベルの高い人もいれば、そうでない人もいる。人種も母国語もさまざま。だから、マニュアルが必要な社会というわけだ。こういう社会で作られた資格は、したがって『最低限の品質保証』的な意味合いが強いといえる。戦後、アメリカを模倣し過ぎた日本でも、資格は『最低限の品質保証』の色彩が強い。自分は、そんなアメリカの資格なんか要らない。日本の資格も要らない。
自分が共感するのはドイツのマイスター制度である。パン職人になるにしても、6年間の修行が必要だという。6年だよ。医者と同じだ。
残念なことに、日本はアメリカ化するばかりで合理化社会に転じてしまった。NHKの『プロジェクトX』が最後の望みだったのだが、この番組も終了してしまったのも時代の流れか? 早く『プロジェクトX2』が始まることを願っている。
自分としては、あえて時代の流れに逆行して合理主義一辺倒を否定し、マイスター制度に倣っていこうと思う。ただし、職人といっても「黙って見てろ、技を盗め」などと言ったことはない。きちんと、理論の説明はするしデータに基づいて指導している。データに基づく職人たれ、である。
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