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2005.11.18

脳科学に、チョット待った。

最近の学問領域で、急速な進歩を遂げているのが脳科学である。

科学の発展のお陰で、脳の働きが解明されつつあるのだ。そして、これと同時にありとあらゆる分野−例えば、医学、リハビリテーション、工学、スポーツ、心理学、教育学、哲学など−で、脳科学が取り入れられてきた。脳科学ブームといえるだろう。

脳科学の良いところは、説明の節約性の高さである。人間の複雑な行動を、いとも簡単なフレーズで説明できるのである。たとえば、特定の場面でキレやすい子どもについて「脳内のドーパミンが不足している」と説明。非常に分かりやすいものである。

もう一つは、メタファーがフィットしやすい。たとえば、「あいつを殴ったのは脳が指令を与えたから」と言う。「指令を与える」とは第三者が自分に指 示・命令を出すことだが、あたかも自分の脳が上官で、それに従う下士官たる自分がいるという説明なのである。1つの体の中に、命令する側と命令される側が存 在するような説明だ。

説明の節約性が高いと、われわれは「なるほど」と、つい納得してしまいがちだ。しかも、最近の日本人は横文字に弱い。カタカナ語を使い回すと格好良いと思い込んでしまうところがある。脳科学は、カタカナダラケナノダ。

だが、われわれに必要なことは節約的な説明なのだろうか。節約性の高い説明の短所は、ややもすれば循環論に陥りがちな点にある。

たとえば、「授業中、すぐに立ち歩いてしまうのはどうして?」→「ノルアドレナリンが不足しているから」 →「ノルアドレナリンが不足しているって、どうして分かるの?」→「だって、すぐに立ち歩いちゃうでしょ」・・・。脳科学の説明だけでは、すぐに問題解決 というわけにはいかない

少なくとも、問題解決という観点からは、説明の節約性よりも他に大切なことがある。

それは取りも直さず、どんな場面でどういう行動が生じやすいか、どういう条件でその行動が増えたり減ったりするかという知見であろう。つまり、行動科学が標榜していること、すなわち行動の予測と制御こそ問題解決の観点から有用なのである。

行動分析学(Behavior Analysis)は、表面に現れている行動しか研究対象にしていないと、未だに誤解されていることが多い。行動分析学では、脳の働きや遺伝要因などを否定していない。いわゆる心の動き−意識、思考、欲求、記憶、推論など−が、目に見えないものであっても、行動として扱っているのだ。

だが、それらを行動の原因の説明に用いることは避けている。だって、行動の説明を、その行動のレッテルで説明しても仕方がないでしょう。「すぐに殴るのは攻撃性が高いから」「攻撃性が高いからすぐに殴る」。ほら、循環論。実用的でない。

とても読みやすい入門書が出版された。新書なのでスラスラ読める。行動分析学の「なるほど」は脳科学とはチョット違って、「なるほど、使える」である。行動分析学を知らない人も、一読されることをお薦めする。きっと、新しい発見があるだろう。

Posted by 奥田健次 学ぶこと |