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2005.11.15

息子に『ひったくり』を教える母

自分は、あちこちの講演や講義で話をしてきた。『子どものニーズ』『親のニーズ』『社会のニーズ』をバランスよく調整していく必要があると。

ニーズの内容によっては、受容するのではなく、否定しなければならないこともある

具体的な例をあげれば「子どもが他人の物を欲しいと言っても、それを無条件に受け入れていいものか? ここで親のニーズが問われる」「もし、他人の物を盗んだら、それは社会のニーズから逸脱する」などと、分かりやすい話をしてきた。

『親のニーズ』だって傾聴する必要はあるが、絶対に受容しなければならないわけではない。「絶対に東大に行って欲しい」「こんな人と結婚して欲しい」などと願っていても、子ども本人がそれを望まない場合もあるだろう。

そして、今までは上の例に加えて「万が一、保護者が『息子を天下一のドロボーにして欲しい』と言ってきたら? お金を積まれても断るでしょう? まあ、こんなことは『どろぼうがっこう』っていう絵本の中でのことやけどね」と説明してきた。

ところが、これが絵本の中の話だけではなくなってしまった。先週末のニュース。

中1息子にひったくり指示、無職の女を逮捕・神奈川県警
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20051111STXKF053511112005.html
(NIKKEI NET)
 神奈川県警は11日までに、中学1年の二男(13)らにひったくりを指示したとして、窃盗教唆容疑で横浜市鶴見区の無職の女(33)を、窃盗容疑で実行犯の中学3年の少年(15)ら2人をそれぞれ逮捕し、二男ら少年3人を補導した。
 調べによると、逮捕、補導された5人は13—15歳の中学生。8月から鶴見区内で11件のひったくりをし、被害は現金約36万円など。女に約25万円を渡したというが、女は「知らない」と否認しているという。
 女は同居の男性(28)、中学2年の長男(14)、二男の4人家族。男性は生活費を渡していたが、女はパチンコにつぎ込んでいたという。
 女は10月7日、自宅で二男とその友人らに「引っ越し代金がないからひったくりをしてきてよ」と指示。二男らが近くの路上で、女性会社員(66)から現金約22万円入りのバッグを奪った疑い。〔共同〕

19歳のときに母親になったのか。以前の記事「子どもを上手く育てるために」に書いた、「生物として親になることは簡単である。だが、親らしく生きることは難しい」ことを物語る典型的な事件だった。

だが、こんなことは戦時中にもあっただろう。不安定な状況では、子どもに略奪をさせるなどということは十分あるわけだ。別に、現代特有の精神病理というほどのものではない。

むしろ、日本もいよいよ戦時中の状況下におかれたとみるべきではないか。これからは、火事場や大震災での助け合いは無くなり、略奪の世に移行していくのだろう。これが、戦後60年経った日本の姿なのだ。

いや、厳密には阪神大震災のときには市民もヤクザも見事な人助けをしていた。あれから10年。新自由主義が生み出した価値−大企業の利潤を絶対視すること(拝金主義)−は、『勝ち組』『負け組』という視野狭窄を市民の意識の中に植え付けてしまった。

ここ数年、新自由主義という保守の衣を着た左翼思想が、日本的な良い物を完全に破壊してしまったのだ。あまりにも、嘆かわしい。

Posted by 奥田健次 教育, 社会 |