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2005.10.22

どうしようもない校長

数年前、自分が教育相談スクールカウンセラーではない)をやっていたときの話だ。教育委員会から派遣されて地域の小学校を巡回していく。ある日、巡回先の養護教諭から、ある不登校児(A児)についての相談を受けた。詳しく話を聞いてみると、明らかに虐待があるのだ。ネグレクトというタイプの虐待である。ネグレクトとは、保護者が養育をおろそかにする、または完全に拒否することである。

ネグレクトという用語は、そのままカタカナ語として定着してしまった。つまり、昔の日本にはこんな問題など無かったのだろう。いわば舶来種の病気みたいなものだ。

このA児であるが、まず保護者が夜まで帰らなかったり外泊したりして、学校側からなかなか連絡を取ることができない。家庭訪問は拒否され続けている。それでも、心ある養護 教諭がA児の普段の状態を心配して、自宅まで様子を見に行ってみると、玄関から見えた部屋の中はゴミだらけ。ゴミの様子から、コンビニのおにぎりやパンを食べて生活している模様。

こうした状態が入学してから2年近く続いているそうだ。自分はその問題を不登校と片づけるのではなく、すぐに虐待の問題として対応してほしいと養護教諭にお願いした。

そしてその足で、教育委員会に戻って教育長に報告し、校長から話を聞いた上で児童相談所に通報するよう依頼した。養護教諭に迷惑がかからないように、教育長には「巡回相談員の奥田が言っている」と話すよう念を押しておいた。ここまではうまくいったようだ。

ところが、1か月後、学校長は何も動いていないことが判明した。教育委員会に聞いてみたところ、すぐに校長と話をしたら「学校側で対応します」と返事があったとのこと。養護教諭に確認したところ、学校側では何の動きも無かったということが判明した。

自分は教育長に、
「虐待を学校側サイドで黙認している可能性がある。教育委員会もそれを黙認するのか。すぐに役所の保健師も入れて『児童虐待防止連絡協議会』みたいなミーティングを開いてほしい」
と、お願いした。

お願いついでに「この連絡会を開催できないなら、自分はすぐにこの仕事を辞めて、一市民となってこの子を守ります」と脅しを一発かましておいた。ここの教育長は話が分かる人だと信じてのことだった。そして、それは正解だった。

教育長の鶴の一声で、すぐにこの連絡会が開催された。参加者は、小中学校すべての校長と養護教諭、保健師、教育委員会主事、そして自分であった。こうした会議は異例のことだった。邪道かもしれないが、自分の力でもこういう教育委員会の壁を取っ払うこともできるんだなあと、ちょっとした自信にもつながった。

さて、その会議で、自分は用意した資料をもとに虐待の定義を分かりやすく説明し、児童虐待の通報義務について説明した。

続いて、各学校や幼稚園、保健師などが気になる子どもについての情報交換を行った。この会議に先立って、ここに参加しているすべての人間が相談内容についての守秘義務を遵守することを確認、約束していたので、ここでは個人名を出し合って話し合うことができた。

ここでA児のことについて養護教諭が不登校の状態と家庭の状況について説明をしてくれた。さらに、保健師がA児の小学校入学前の様子について説明して下 さっている最中、このA児の小学校の校長。ステンレス製の長机を突然「ガンッ!!」と蹴ったものだから、場の空気が険悪になった。このオヤジ、悪びれる様子もない。誰もがたまたま足が当たってしまった のだろうと思うことにしたが、自分が「すぐに学校または教育委員会を通して児童相談所に通報してほしい」旨、説明している最中に、なんともう1回「ガーンッ!!!」と蹴っ てきた。

自分は『このヤクザ校長のクソガキめ、ワシをなめるなよ』と言ってしまうところを、グッと堪えて「では、校長先生のご見解を聞かせて頂けますでしょうか」と問いかけた。久々の修羅場だぜ。

するとこのバカ校長。「私の学校には、虐待は無い、いじめもない、何も問題ないと考えている」と言いやがる。

自分は「それは先生のお考えでしょう。問 題のない学校なんてありませんよ」と言ってやった。

するとこの馬鹿オヤジ校長の馬鹿発言は最高潮に達する。「自分の目の黒い内は、本校で虐待など起こらない。起こったとして も認めない」

『たわけ者、お前の目が黒かろうが白かろうが関係ないんじゃい』と、これは心の中で。自分もなかなか大人になったものだ。

自分は「教員が虐待していると言っているのではなく、家庭内の問題について言っているんですよ」ということを何度も説明しているのに、「虐待」という言葉だけに反応してしまって、まったく聞く耳を持っていない。後で聞いた話だが、この校長はとにかく人の話を聞かないので有名らしい。

結局、自分はこのミーティングの後、教育長に「この学校長はすぐにクビにするべきです」と進言。1年後に定年を控えた校長のクビを切ることなど出来ないことを知っ ての進言だが、「それが出来ないなら教育委員会が責任を持って児童相談所に連絡すること」と強く提言した。

「次回までに通報していなければ、マスコミを使っ てでも全部告発します、子どもを守るために」という脅しのスパイスも忘れずに。

最後のスパイスは不要だったかもしれないが、お陰で教育委員会からの通報は成就した。だが、最初から動かないだろうと予想していた通り、児童相談所は動かなかった(児相の問題はまた記事にする)。でも、児童相談所がどうせ動かな いだろうからと思って通報しないのは間違いなのだ。まずは、自分らの責任を全うすることが大事である。A児については引き続き、自分と養護教諭、保健師 で連携を取ってフォローしていくこととなった。

それにしても、この校長。本当にどうしようもないぜよ。こういう輩が「大過なく定年を迎えることができました」などと言うんだろうな。私立学校や福祉施設に天下りしたり。勲章ももらうんだろうな。

まったくおかしい社会ぜよ。

Posted by 奥田健次 教育社会 |