斬首か、切腹か
郵政民営化法案反対議員の処分。ここに処分のグレーディングあるのだが(自民党の処分には8段階が設定されている)、最も重い『除名』、その次に重い『離党勧告』について考えてみたい。
単純に言えば『除名』という処分は罪人扱い。『離党勧告』という処分は、武士の情けで切腹の沙汰である(注:慣用的に「武士の情けで」と述べたが、それは昔の話。今日のは、以下の本文をお読みいただければお分かりになると思うが、単なる政治利用に過ぎない)。
常識的に、除名された場合は組織に戻ることはできない。離党勧告の場合は、自ら離党することで除名は免れるが、10日以内に離党しなければ除名となる。
赤穂浪士の大石内蔵助以下46名は切腹のお沙汰であった。復讐をテロによって実行したが、罪人扱いにはされなかったのだ。一方、新選組の近藤勇は斬首であった。つまり、近藤勇は罪人とみなされたのであった。
さて、今回処分された議員は何をしたというのか? 郵政民営化に対して反対の立場をとったこと、あるいは郵政民営化関連法案の中身について反論したこと、もしくは審議の進め方に疑問を持って反対派に同調したこと。こんな程度ではないか。
反対票を投じる前から、反対すれば厳重に処分されるという脅し、圧力があったのを知りながら、それを覚悟の上での、いわゆる『造反』だったのだ。好きで造反したのではなかろう。大石内蔵助も、近藤勇も、そうせざるをえない状況にあった(追い込まれたという見方もあり得る)。自分の主君が蔑ろにされたのが許せなかった。自分を慕ってきた者のことを放っておけなかった。人間の行動を考えるとき、言動のみを考慮しても意味がない。必ず、文脈を読まなければならない。最近、この文脈の読み取りが苦手な人が世の中、満ちあふれている。
処分覚悟で臨んだ造反議員。彼(彼女)らだって、国民に選ばれた国会議員だ。国民の代表だったのだ。国民の代表者が、永田町で反対意見を出した挙げ句、斬首されるとは一体どういうことなのか。
--以下、引用。
YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20051021i213.htm
綿貫、亀井氏ら9人を除名処分…自民党紀委
自民党党紀委員会(委員長=森山真弓・元法相)は21日、先の通常国会で郵政民営化関連法案に反対し、新党を結成して衆院選に立候補した綿貫民輔・元衆 院議長、亀井静香・元建設相ら9人を除名処分とすることを全会一致で決めた。郵政民営化問題をめぐり、自民党が党議拘束違反者に対して出した処分はこれが 初めて。
党紀委ではこのほか、無所属の衆院議員、自民党会派に所属したままの参院議員ら50人の処分を検討しており、次回28日の会合で決定する。
除名処分となった9人の内訳は、国民新党が5人、新党日本が4人。衆院議員は綿貫、亀井静香両氏と亀井久興氏、滝実氏の4人。参院議員は荒井広幸、長谷川憲正両氏。また、衆院選で落選した前衆院議員の小林興起、津島恭一、青山丘の3氏も除名となった。
9氏は、いずれも衆院選公示前に離党届を提出していたが、党紀委員会ではこれを受理せず、除名処分とした。
森山委員長は除名の理由として、<1>党の方針に反して郵政民営化関連法案に反対した<2>別の党を結成して衆院選で自民党の公認候補の選挙を妨害した——ことを挙げた。
(2005年10月21日22時4分 読売新聞)
--以上、引用終わり。
除名の理由については、かなり不当な内容である。「自民党の公認候補の選挙を妨害した」というが、それをいうなら自分らこそ真っ先に処分されるべきではないか。自民党執行部が刺客を立てたから、仕方がないので「別の党を結成せざるを得なくなった」のだ。これらすべて「勝てば官軍」の図式なのだ。
もう1つの問題は、「(除名された)9氏は、いずれも衆院選公示前に離党届を提出していた」にもかかわらず、それを受理せず除名処分にしたことだ。「ここはひとまずケジメとして切腹しよう」と決めた武士に、「いや、貴殿らは斬首だ」と一方的に犯罪者扱い。マスコミ論調も、小泉自民党に反対した議員を造反者(悪者)扱いしていたので、「市中引き回しのうえ打ち首」だった。
さて、ここまで切腹だの斬首だのと言ってきたが、これらの処分にあった信念居士は実際には生きている。以下、これからの問題について心理学者の立場から考察し、予告しておこう。
最も問題なのは、除名された議員よりも離党勧告となった議員である。自民党執行部は何を考えているか? 至極、簡単である。
「貴殿らには、近い将来、復党の可能性を残しておいてやろう。だが、そのためには・・・・分かっているだろうな」というアプローチだ。この「・・・・」の部分は、それぞれの議員によって求められる内容が異なるのだ。まあ、分かりやすくいえば「それなりの土産」だ。
それは、利権かもしれないし、敵の生命かもしれないし、自分の体(魂?)かもしれない。
すでに魂を売っている可能性だってあるのだ。「今回の処分は見せしめ上、離党勧告としておく。だが、○年後には復党させてやろう。ただし、そのためには・・・・分かっておろうな」という密約。
どうやら野田聖子議員が最も危うい立場になってしまった。特別国会でも法案反対を貫いた平沼赳夫議員が離党勧告処分で、一転して賛成票を投じた野田氏も平沼氏と同じ離党勧告処分。野田氏は完全に立場を失った。こんなことなら、法案反対を最後まで貫いたほうがよかったのではなかろうか。今さら寝返ってしまった郵政法案反対派の仲間に戻ることもできないだろうし。そんな後悔の念すら、ちらついてしまう。
だが、野田氏は「自民党総裁となり、日本初の女性総理大臣を夢見てしまった女」である。彼女は、失った立場を回復するために、「相当な手みやげ」を用意しなければならない。彼女の場合は安くは済まない。「それなりの土産」では不足だ。
ただこれはあくまで、自民党に復党しようとする場合のことだ。復党の意志がなければ、そんな手みやげなどいらない。しかし、この夢見る女は、離党勧告処分を受けての会見でさっそく復党したい考えを表明。「(党を離れる)時間を短くしたいというのは当然と思っている」。『やっぱ戻るっきゃない』の信念のみか。野田氏のことは残念だ。剃髪して、一からやり直すしかない。
それにしても、この構造。これは『いじめの構造』である。永田町だけではない。世の中すべてに、この構造が拡がっている。イエスマンのみが生き残れる社会だ。小泉構造改革とは、こうした『いじめの構造』を造り上げるものだったのだ。悪代官と越後屋か。はたまた「ムショから出てきたら組長だぞ」と約束されて暗殺に向かう鉄砲玉か。こんなステレオタイプな時代劇や任侠話が、この国を動かす大人たちの現実なのだ。
今回、離党勧告処分を受けた議員(役職停止処分など、除名以外の処分を受けた議員も)の今後に注目である。
Posted by 奥田健次 経済・政治・国際いじめ・ハラスメント社会 | Permalink
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